「完全即興」アフタートーク・シリーズ


アフタートーク_NO.2

松村武さん(劇団「カムカムミニキーナ」主宰/演出/劇作)


絹川友梨(絹川):はじめまして!今日は、よろしくお願いします。

 

松村武(松村):よろしくお願いします。(お客さん:拍手!)

 

絹川:まず簡単に松村武さんの経歴を紹介させていただきます。

 

松村武さんは、早稲田大学在学中の1990年に、八嶋智人さんら4人で劇団「カムカムミニキーナ」を立ち上げ、以降主催者として劇団の全作品・全演出を担当。外部作品での作演出も多く、ミュージカルからシェイクスピアまで幅広く手掛けておられます。

 

清水さん、清水さんはおつきあいが長いんですよね。

 

清水宏(清水):とにかく、いっぱい芝居をやってらっしゃる。本来は、分かりやすい芝居、たとえば人情ものなんかを作るひとじゃなくて、今までになかったストーリーを作る人です。ですが近年はいろんなところから依頼されて、たとえばエクザイルの脚本を書いたりもしてるんですよね。しかも喜劇大御所、左とん平さんが出演された中日劇場の芝居の演出をしたかと思うと、一方では、奈良や出雲で「市民劇場・草演劇」というものをやろうとしている。これは、その町や村に住んでいる人たちが、自分のことを演劇にしていくっていうプロジェクトです。そんなことを、いろいろやってる人なんですね。

 

絹川:ずいぶん幅広い活動ですね。

 

松村:はい、、あの、、(清水の額のたくさんの汗を見て)、、タオル、、。

 

清水:あははは、そうですね〜。それが自然ですね〜(とタオルを取りに行く)

 

松村:みなさん、ちょっと休んだ方がいいんじゃないですか。やりにくいですよね。ちょっと一服してくださいよ〜。

 

清水:まだ終わってない感じですもんね。妙に頑張らなくちゃいけない感じ。ぜんぜんそれは気にしないでいただいて、、。

 

松村:いやあ。すごいですよね。すごく怖いことをやってらっしゃいますよね。僕、早稲田大学出身で、清水さんの後輩です。(絹川に)早稲田ですよね?

 

絹川:はい、昔、早稲田大学演劇研究会系の劇団にいました。早稲田大学演劇研究会、通称:劇研から産まれた劇団がたくさんあって、それらの劇団の稽古では、よく「即興」が使われていました。わたしもよくやらされました。

 

松村:ですよね〜。僕は劇研出身ではないんですけど、それをよく知っているので、即興って言うと、基本的に稽古場にいるみたいな気持ちになります。しかも自分がやっているみたいな気持ちになる、、。

 

清水:気が気じゃないよね〜。

 

松村:ドッキドキでね。だから見てて怖かったですね。

 

清水:ドキドキだし、これのすごいところは思いもかけないことになるってことですね。

 

松村:そうですね。

 

清水:全くもくろみじゃないことを、俺たちは今やってるんだってこと。結果的に、絶対にNOって言わないですしね。

 

松村:そうそう!「即興」をやるときは、基本的に否定しないじゃないですか。最大のルールがあるんですよね。「あれ?足ないじゃない?」って言われたら、「あるよ」って言っちゃダメなんですよね。そのルールでみなさんやってらっしゃると思うんで、いや、すごいな、と。

 

絹川:どこの辺りがすごいと?

 

松村:普通は稽古をしていて、即興でやったものを、何か一つの断片のイメージをどっかに使うとか、そういう感じですけれど、ここではまさにそのまま見せている。まるで格闘そのものを見せるって感じ。それがすごい。

 

清水:なるほど。

 

松村:だからお客さん色々と感想あると思って、それを聞きたいです。ぼくはずっとスリリングに見てました。そして「何でこれ面白いのかな」と。何にもなってないのに、何で面白いのかな、と。

 

清水:はははは(笑)

 

何で面白いんだろう〜?

 松村:そう思いませんか?何一つ何にもなってないのに。最終的に流動体そのものを見てよかったと思える・・・・みたいな。

 

清水:何なんでしょうね。

 

松村:いや、すごいなと思いましたよ。勉強になるというか。動物園みたいな感じですよね。

 

清水:生のなんか・・・・・

 

松村:そうそう。トラとウサギが一緒のオリに入れられてる状態をずっと見てる・・・・みたいな。何か全く何にもならないんだけど。

 

絹川:昔の即興演劇は結構きれいに起承転結があって、上手くつくっちゃう、ところがありました。でも、それはちょっと「つまんないな」と感じるところがあって、今回のショーがあります。

 

昨日飲み会で、一楽さんと話しをしていてに面白いなと思ったのは、演劇の即興に比べて、音楽の即興はもうずいぶん先まで行っていて、綺麗に創ってしまうよりは、お互いに平行線で行こう、みたいなことになっているらしいんです。

 

ね、一楽さん?

 

 

さらに予定調和をなくしてく作業。

一楽儀光(一楽):基本的に平行線ですね、、、。

 

全員:ほぉ〜。。

 

一楽:相手の表現に反応しちゃうと、もう面白くなくなっちゃう。「間」とか「本能的な部分」だけでつながってる感じです。言葉とか演技とかじゃなくて、「どうしても出てしまうものを化学反応としてみんなで楽しもうぜ」という方向で動き出していますね。だから、ドレミとか感情の起伏とかじゃなくて、まるで科学の実験をしているような。どっかから変なものが出てきたら、それをつかまえて新しいものに変換していく。

 

清水:すっごいよね〜。

 

松村:いまおっしゃった、本能的なものっていうのか、官能っていうのか、どこって言うんじゃないんだけど、ありましたね。それがあるから、次にそれがおこるのを、ず〜っと待ってるんですね。ずっと追い続けていられる、役者とと(一楽さんに)ミュージシャンがいて。存在のあり方がすごいなと思いましたし、個人的には怖いなと思いましたね。

 

清水:今度いっしょにやりますか。

 

松村:いやいや、もうイヤです。おそろしい、、、!それにしてもすごいですね。

実は、ぼくらも若い時に、即興だけの公演をやったことがあります。もっと、ちゃらけた感じだったのですけど。お題をもらって様々なパターンの作品をその場で作る。しかしどうしても、何か形になることを目指してしまうところがありました。ゆえに、「じゃあ最初から形にしといた方がいいじゃないか」というところに落ち着いて行って。今でも「即興でつくる表現」は大事にはしているんですが、それは台本がある中で、エッセンスとして即興的なものを混ぜるということになっています。

 

清水:かつては、カムカムミニキーナの芝居も、即興からつくるっていうこともあったよね。

 

松村:そうですね。清水さんに出ていただいた時とかはそうでした。やはり清水さんの良さや素晴らしさは、即興だからこそ破裂するって言う時がありました。みんなで集まって、さんざん即興のエチュードをやって、そこで面白かったものを「再現するだけ」の芝居をやったこともありました。

 

(客・笑)

絹川:それは再現できたんですか?

 

松村:そこから出てきたものを、大げさに物語化するみたいな構造でした。「大自然」っていう題だったんですけど。「自然って何だろう」っていうのがテーマ。

 

清水:やってることが、そのまんま「大自然」だよっていう。

 

松村:その稽古は公民館なんかでやりました。いろいろなシチュエーションで、たとえば「先生と生徒」って言う関係で即興をやって、で、稽古の最中に起こったこと、たとえば公民館の備品を壊してしまったのを落ち込んでいることをテーマにするっていう、、。

 

 

清水:たまたま壊れちゃったんだよね、何かね。

 

松村:普通だったら、もし稽古中に、誰かがハンガー壊しちゃったら、稽古を切りますよね。

 

清水:「一回やめにしよう。ダメダメダメ・・」って。

 

松村:でもその時、清水さんがここぞとばかりに、「お前ら、もうこのハンガーは二度と元にもどらないぞ!」とか言いだして、シーンが続いていきました。それが、すごく面白かったんですよ。

 

清水:でもさ、それを再現するのは大変なんだよね。「こんな瞬間を再現できるんだろうか」ってほど難しかった。で、松村君のダメだしも「全然再現されてないよ」って言う感じで、そういう、ちょっと恐ろしい領域にもなってて・・・・。

 

松村:だって本当に、「本番中にうっかり小道具壊した」みたいに思えないと再現じゃないですか。

 

絹川:そうですね。

 

松村:それを何回も練習しました。

清水:何回もうっかり壊したように演じるんだけど・・・・。

 

絹川:それは最終的に本番でもそうなったんですか?

 

松村&清水:はい。なりました。

 

絹川:結局、戯曲を使って芝居を創るということはそういう作業をすることですもんね。

 

松村:そうですね。ただ、そのときの芝居が一番、難易度高かったですね。

 

清水:難易度高かったです。「今」壊れた風に演じるって言うことなんですが、それを一体どういう風に、割とキャリア浅い女優さんがね、後輩だったんですが、その女の子ができるようになるのかということなんですが。彼女が不良の役として、先生に「おりゃー」って反抗します。それでハンガーが壊れる。「あ、こわしたー」って周りが騒ぐ。そこでシーンが終わるかと思いきや「責任取れよ」とストーリーが展開していく。「え、まだ続くの?」ってことになるんだけども。そう演じたら、リアルに再現できるか、彼女に言ってあげられる言葉がなかったんだよね。

 

松村:そうそう。

 

清水:本当に壊れたように何でできないんだ、とかしか言えない。

 

絹川:もっと具体的なアドバイスは無かったんですか。

 

清水:ありませんでしたね、それが。なぜかというと、そのための言葉がなかなか見つからなかったっていうことなんですが。

 

松村:台本のある普通の演劇とも違っていました。ほんとに難しかったんですが、最終的には出来ましたね。

 

清水:そうだったね。でも、その子、打ち上げで泣いてました。「これでやっと、自然に何か壊れるってことを自然じゃなくやる世界から解放されます」って言ってね。(笑)

 

松村:それで話しは戻るんですけど、全然合わせようとしないんだというのが、すごく新鮮ですね、、。

 

絹川:ありがとうございます。 

ベルギーの演劇界でのインプロの位置づけは?

絹川:あの、ヤンさんここまで一言もしゃべってないですよね。ヤンさんに何か伺ってみたいことありますか?

 

松村:ベルギーのインプロはどう違うかってところが聞きたいですね。

 

ヤン(英語/絹川通訳):舞台俳優の方が、インプロの俳優より優位というか、上に見らる傾向があります。「即興なんか」という感じでみられてる、というのもあります。技術的にも俳優のが上って言うのもあるんでしょうけど。俳優が即興やってるのを観客席で見ると、すごく簡単に見えるから、「即興は簡単だ」と思われがちです。

 

絹川:日本でも似たようなことは起こっていて、俳優が即興で演劇とやると、俳優はもともと「舞台に立つために必要な力」があるので、舞台が成り立ちます。それを見ているアマチュアの人々は「あ、即興は台本を覚えなくてもいいし、簡単そうだからやろう」みたいな感じでやってしまう。でも本当は即興をやる以前の問題として「舞台に立つための身体」が必要なわけです。でもそれを知らないために、簡単に舞台に立ってしまう。お客さんがそれを見て、舞台としてのクオリティの低さに「あ、即興面白くないな」という評価をしてしまうという状況があります。

 

清水&ヤン:(うなずき合う。絹川、ヤンに英語で説明)

 

絹川:でも「やり続ける」しか成長する方法はないわけで、、。それがストラグルですね。

ちなみに、現代のベルギーの演劇は、ヤン・ファーブルを筆頭として、革新的、前衛的な演劇が注目されていますよね。即興性が入ってるものとか、さまざまなバラエティーの演劇があります。演劇的に進んでいると思います。

清水:(松村さんに)カムカムミニキーナでもどうですか(と、ヤンさんを指す)

 

絹・(英語でヤンに説明)

 

清水:ちょっと面白そう。

 

松村:主役ですね。

 

清水:最初から!

絹川:(英語で説明)

 

清水:まだ何も決まっていないのに、すでに主役!

 

絹川:いいですね、それも。

 

松村:そういえば、即興ってちょっと「半ふき」みたいなのあるじゃないですか。

 

絹川:ちょっと笑っちゃう、みたいな。

 

松村:若い時は、舞台での「半ふき」はおこられるんですよ。ぼくらすごい怒られました。お客さんでも、嫌いな人は嫌いだと思います。でも僕は割と好きなんですね。役者がふいたりするのは。あれは別に、テンションが低いわけじゃありません。何か不敵な感じもするし、僕は好きなんです。そして、ヤンさんが半笑いだったのが、僕ちょっと面白かった。(笑)

 

 

清水:そういうところがあるね。脈々と流れる半笑い文化というか。

 

松村:へぇ半笑い、あるんだなって言う。(笑)

全員:ははは(笑)

 

絹川:そろそろお時間がやってきてしまいました。演劇の世界から即興をみていただいて、お話がとても面白かったです。また見に来てくださいね。

 

松村:あ、ぜひ。

 

絹川:今度一緒にやってください。

 

松村あーそれはもう。いやです。

清水:まず、僕とやりたくないんだよね。お互いに、大変だから

 

松村:いやいやいや。

 

人間って、基本的に、価値観が揃わないものですよね〜。

 

松村:人間って、基本的には、価値観が揃わないもんじゃないですか。特に今回は、ミュージシャンもいるし、役者もいるし、違う国の方もいる。浅い考えだと、一つのなんらかの共通なものを探そうとしてしまいがちですけれど、それでは何かつまらないですよね。

ある創作表現を「一時間くらいしないと見つからない」ような、「そのくらいやらないと繋がれない」ようなものをやろうということなのかと思いました。

 

だからきっと、こちらも、すごく一生懸命見れていたんだと思います。その演劇の力っていうものを。

これは、みなさんだからできたことで、芝居をはじめたての20才前後の子達が、しかも同じ仲間でやったら、一時間も持たないんじゃないかな。やっている人間たちが「共通認識」だけでうごめいているだけということになりがちですよね。

 

演劇としての何かを、とてもかみ合いようのないところから、目撃できたという感じがします。だから全然なんにもならないでいいんだと。

 

清水:前は何かにしようと思ってたんです。でも、それが我々の手に負えない形だったりすることがあって、、、。

 

松村:それを清水さんは多分、手に負えないものとお客さんを何とかつなげようとしていた。ホント、清水さんはそういう達人だと思います。絹川さんは、最終的に興行として一つのまとまりをつけないといけないんで、そういとことを何とかやろうとしているように見えました。

 

絹川:今日はストーリーを作ろうとしてました。

 

松村:それが噛み合わないところもありましたよね。(笑)

そこに、ヤンさんと音楽が入ってくることで、非常に無秩序だったです。

 

清水:すごいことだね。

 

絹川:今日は特に無秩序でした。

 

清水:すごいよね。

 

松村:すごい、よくこんなのやるなと思って。だからホントに、勉強になりました。

 

清水:(笑)

 

松村:この面白さは何なんでしょう。

 

清水:何なんだろう。この演劇は、松村が色々取り組んでる演劇の中に入るものなの?

 

松村:いや、どうでしょう。さっきおっしゃったみたいに、地方でプロじゃない人たちとやる「草演劇」っていうのは、草野球みたいに「投げ地に空いてる時間に集まってやろう」というコンセプトなんですけど、これが既成の劇団より面白かったりするんですね。

これ、なんだろうなと。じゃあ逆にプロって何なんだろうと。

 

清水:演劇のプロって、いったい何だろうと。

 

松村:プロというのは、技術がたけてるってことだけなのだろうか。喋り方がうまいとか、そういう「芸」みたいなものなのか。でも今回みたいなの見ると、これはプロにしかできないことだなって思いますね。プロしかできない、なんかこうつながりみたいなの。

さっき「動物園みたい」って言ったのは、全く考えることが違う動物が、ホントにチーターとウサギとかが・・・・

 

清水:一つのオリに・・・・・

 

松村:そう、一つのオリにいるみたい。考えていることが違うんだけど、奇跡的に絡みが発生するみたいな。チーターとウサギの演劇的瞬間を見ることで、同じ空間にいるんだっていうことを感じることができる。絶対に普段意識してない言葉が発生したりもする。プロってこうか、っていう感じですね。だからこれは、成功とか失敗とかないですよね。見るって言う状況を見る、っていう感じ。

 

清水:だからみんな、人生の99パーセント出してしまってるんですよ。「このあと夜の公演はやれるのかっていう状況ではあります。

 

松村:全力ですよね。全力だと思いますよ。

 

絹川:そうしないと、お客さんにも失礼なのかなと思います。それしかできないので、それだけは出すという。

 

松村:いや、ぼくここに立って感じるのは、舞台に立ったら普通の生活では出ない全力が出るなと思いました。脳内開示というかね。

 

清水:そうなんですよね。

 

清水:今後の予定は?

 

松村:11月にカムカムミニキーナの公演が、座・高円寺でやります。

 

絹川:是非みたいです!みなさん、ご来場くださいませ。

 

   今日はありがとうございました!(拍手で送りだし)

  

(松村さん、退場)

 

全員:ありがとうございました。

 

(一同:礼)

 

松村武さんの劇団「カムカムミニキーナ」の公演インフォメーション

 
「クママーク」
10月31日~11月10日
作演出: 松村武 
出演 八嶋智人 山崎樹範 他
場所:座高円寺

大阪 名古屋 島根 奈良公演あり
詳細は
http://www.3297.jp/
 
 

2013年6月4日収録

テープ起こし:大塚瑞恵

写真:山村いずる&北九州芸術劇場

監修:インプロワークス(株)&劇団「カムカムミニキーナ」

 


アフタートーク_NO.1

    小山龍介さん(ビジネス書作家・コンセプトクリエーター)


2013年6月3日(月)に下北沢「楽園」で行った即興パフォーマンス公演

「完全即興」のアフタートークの様子が記事になりました。

1日目のゲストは、(ビジネス書作家 コンセプトクリエーター)の

小山龍介さん。

 

「もう、すごく面白かったです!」から始まり、

「ビジネス界で、インプロはどう使われているの?」

「これからインプロはどのような分野で広がっているの?」など

とても充実したトークになりました。どうぞ、お楽しみください!


絹川友梨:それでは、さっそくアフタートークを始めたいと思います。

本日、初日のゲストはビジネス書作家の小山龍介さんです。

 

(小山、客席より登場。お客さん、パチパチと大きな拍手)

 

小山龍介さんはビジネス書作家で、コンセプトクリエーターでおられます。大手広告代理店勤務を経て、サンダーバード国際経営大学院を……、サンダーバードって飛行機のですか?

 

小山龍介:実はもともと飛行場だったところなんです。

 

絹川:へー。 そちらでMBAを取得、松竹会社プロデューサーとして歌舞伎をテーマとした新規事業の立ち上げに関わった後、株式会社ブルーコンセプトを設立、HACKS!シリーズの執筆をはじめ、新製品開発や新規事業プロデュースを行う一方、アイデア発想術やビジネスモデルジェネレーションを用いた企業研修を行っておられます。さっきも小山さんのビジネス書をたくさん読んでらっしゃるというお客さまがおられました。

 

小山:ありがとうございます。

 

絹川:そして最近、インプロにもハマっているんだそうですね。

 

小山:はい。

 

絹川:じつは最近、私も小山さんと一緒にインプロと社会の関係について、一緒に考えさせていただいています。というわけで、今日はよろしくお願いします!

 

小山:こちらこそよろしくおねがいします。

 

(拍手)

 

絹川:それではいきなりですが、今日ご覧になって、どうでしたか?

こ:すごく面白かったですね。もう、本当に。

 

絹川:何が面白かったですか?

 

小山:まずひとつに、今回は映像がありました。かなり違和感がありますよね。

 

絹川:違和感ありまくり!

 

小山:映像から「お題」が急にやってくるっていうのが、すごいですね。この映像は、ある程度準備してあったんですよね?

 

絹川:いくつかあるなかで、ミュージシャンの一楽さんが即興的に選んでいたという感じです。

 

小山:なるほど。ただ、どんなにうまく選んでも、シチュエーションとは絶対に合わないじゃないですか。その違和感に、お客さんが困ってるのも見ていて楽しかったですね(笑)。

 

絹川:(笑)

 

こ:だいたい、お客さんは役者が困っているのを見て楽しむものですよね。S系の人が多いのかな?

 

絹川:(観客に向かって)どうですか? わたしたちはテンパっていますけどね〜(笑)。あ、いまちらっと出演者たちの顔が見えました。多分みんな話したくてたまらない感じなので、出演者の方、こちらにどうぞ。(拍手。出演者がやってくる)。

 

絹川:小山さんと、 3人は初対面ですね。

 

全員:はじめまして〜!

絹川:ではさっそくですが、出演者のみなさん、今日はどうでしたか?

 

清水宏:基本的に「楽しい」ということにつきますね。さっき小山さんが言っていましたが、「全部自分でコントロールしたい」という欲求があるにも関わらず、そうはならない。さっき言ったみたいに「困ってるところ」が、面白いよね。「んで?」っていうところ。

 

そして、そこを耐えぬくっていうか、受け止めるっていうことが僕は好きです。そういう意味で今日は楽しかったし、そういうことがお客さんに伝わっていたらいいなって思います。こうした作業にインプロの可能性があるなと僕は思ってます。

 

絹川: そうですねー、稽古のときは、映像と私たち役者がやることが同じにならないように、適度に離そう、ずらそうということをすごくやっていました。ずらすことの面白さ。どうずらすか。 

 

小山:(一楽さんに対して)映像のインパクトは強いですよね。

 

一楽儀光:そう、役者を困らすにはうってつけね(笑)。「いつまでやるんだ」みたいな感じが楽しかった。実は、仕事として劇団に音を付けるというのはやったことはあるけれど、インプロビゼーションとして演劇の人たちと一緒にやるのは初めてでした。すごく楽しかったし、いろいろ発見があった。

 

絹川:稽古の段階でいろんな試みをしていましたよね。

 

一楽:それにしても、自分がこれだけ人をいじめるのが楽しいとは、発見でした(笑)。

清水:そういう意味では十分に効果が出てました(笑)

 

絹川:ヤンさんはいかがでしたか?

 

ヤン・ファンデン・ブランデン:楽しかったです。分からないところも、たくさんありましたけど。

 

清水:どれくらい分かったの?

 

ヤン:60%

 

清水:60% わかったのね、すごいね〜!

 

ヤン: 40%わからなかった。でも、イエス・アンドのコミュニケーションです。

 

清水:何にイエスって言ったのか分からない(笑)。「オッケー!」って言ったけど全くわからない。それが面白いよね。

 

ヤン:はい。

 

清水:ヤンは隙があれば日本語の勉強していて。変な言葉ばっかりいっぱい覚えてるんだよね(笑)。今日は「お年寄り」って言葉覚えようとしてたんです。「お年寄り」って言葉を何度も練習してるの。どこで使うんだろうね(笑)

 

一同:笑い。

 

絹川:今回の試みとしては、海外が日本と出会う、音楽と演劇が出会うというところがありました。しかも、同化してしまうのではなく、ノイズが出るくらいの関わりを目指してみました。

 

清水:そうですねー(しみじみ)。

 

絹川:もしかしたらハレーション起こして、爆発しちゃうんじゃないか、という危険な取り合わせだったかもしれません(笑)

 

清水:ハレーションはギンギンでした。確かにノイズとの格闘!

 

一楽&ヤン:ははは〜。

 

絹川:そういう意味では、小山さんはビジネスという、また異なるジャンルで、即興を面白がっておられます。次世代のビジネスの現場では、インプロビゼーションのような考え方が創造性を生むとおっしゃられているんですけど、その辺はどうですか?

 

小山:たとえばメーカーで新商品を考えるとします。いままでのやり方では、すでに人気のある商品のよいところをベンチマークして、ここも真似しよう、ここも真似しようと、真似するばっかりのやり方でした。これだと結局、誰も欲しがらない商品ができあがってしまいます。

 

それがダメだと分かって、「じゃあ、まったくゼロから作ろう」とします。そのとたんに、みんな固まってしまう。「え? どうすればいいの?」と。

 

実は今、インプロを取り入れて、新商品開発をしているんです。

  全員:おー  

 

小山:たとえば、メーカーの方々に集まってインプロをしてもらうんです。もちろんみなさんインプロを経験したことがないので、緊張で固まっています。そこにさらに、消費者代表で何人か専門家の方もお呼びします。

 

まず、こんな感じの体操(手をぶらぶらさせる)から始めて、徐々にいろいろなゲームをしていきます。メーカーの人は真面目だから、最初は「はい(気を付けの姿勢)」みたいな感じです。

 

それでいろいろゲームをやって、最後には「画期的なテレビ」といったお題で、何かインプロをするんです。そしてその内容をすかさず記録しておく。あとで見てみると、「あ、これ確かに今までにないし・・・心の奥底でこれ欲しいと思っていたものだよね」っていう発想ができていることに気がつくんです。

 

やっているときは、奇想天外ですし、みんな笑い転げてる。「これ変だ、変だ〜。ははは〜(笑)」って。今日の公演みたいに「うわぁ〜困った、困った。どうしよう」っていう場面も出てきます。「この画期的なテレビには、特徴が5つあるみたいです。」なんてふられて、右往左往する。

 

「え〜! 5つ言わなきゃいけないの!?」みたいに焦る。でも、あたふたしながら、答えていると、5つ目くらいに、なんか面白いものが「ぽろっ」と出てくるんです。

 

こんな風に、いまインプロは何もないところから新しいものを生み出す新商品開発にすごく役立っています。

 

清水:へぇ〜そんな効能があるんですね〜!

 

一楽:ボクたちは、やりっぱなしだけどね〜(苦笑)。

 

ちなみに、インプロと企業のコラボレーションということでは、わたしは、音響ツールのメーカー、ベジタックスさんという会社と一緒に製品を開発しています。ベジタックスさんは、昔、クラブ事業で大きくなったDJの会社なんですけど、クラブ文化が下火になるにつれ、何か代わりのものがないということで、私のような変わった人間といっしょに、音響機器を開発する事業を始めたわけです(笑)。

 

絹川:一楽さんが使われていた楽器は、音楽を演奏すると、その動きが映像操作に連動する仕組みになっています。これは一楽さんが音響メーカーさんと独自に開発されたものなんですよね。

 

小山:そういう意味でいうと、昔のソニーとかは、ユーザーと企業がインプロしていたんですよね。ユーザーもユーザーで、メーカーに期待していて、「どんなのができるの?」と商品を待ち望んでいた。「こんなのできました」とメーカーが新製品を出すと、ユーザーも「これ、こう使ったら面白いんじゃない?」ってメーカーが思ってもみない使い方をしたり。それをメーカーの人が見て「それ面白い!」ってもっと新しいものを開発していく。インプロっぽい商品開発が、もっと多かったんです。

 

ただ、80年代ぐらいから「マーケティング」って言葉が流行りだして。

 

清水:あー

 

小山:マーケティング発想が優勢になっていく。つまり消費者の好みを調査するようになるんですね。質問紙に「イエス」とか「ノー」とか、丸をつけてくんです。こうしたデータから浮かび上がってくるのは、ものすごく「平均的な人たち」です。のっぺらぼうなね。

 

こんな言い方があります。シーソーがあって、こっちの端とこっちの端に人がいます。その平均を取ると、シーソーの真ん中に「人がいる」ことになってしまう。しかし実際には、そこに人はいないんですよ。

 

ものすごく使いやすいものを欲しがっている人と、ものすごくマニアックなものを欲しがっている人がいるのに、それを平均してしまうと、シーソーの真ん中みたいなことが起きる。調査の結果を元にものを作っても「そんなの誰も欲しくないよ」みたいなものになってしまう。

 

そういうところにハマっちゃったメーカーが、全然、面白くないもの、自分達も面白いって思ってないもの、受け取る人も欲しくないものを結果的に作ってしまう。

 

清水:やっぱり! 

自由に意見を出し合えるようなインプロ的環境で企画会議をすると、どんなことが出てきますか?

 普遍的に欲しいようなものが出てきますか? どういうものがでてきますか?

 

小山:最初はくだらないものなんですよ〜。まじめに会議をやってる人にしてみれば、「お前ふざけているだろう!」って絶対に怒られるようなアイデアが出てきます。

 

たとえば、身体を洗っていると、この泡がどんどん増殖して、身体中を包んで、体重が軽くなります。体重計乗ったら「痩せたかな?」みたいな。そんな石鹸のアイデアが浮かんでくる。

 

「それは痩せたって言わない!」って、つっこみたくなるようなことなんですが、インプロはそんなアイデアを大切にするんです。「泡で痩せるってありかもしれないな。だとしたら何ができるだろう?」とか、そういう発想が出てきたりします。

 

そういうバカげたアイデアに、実は未来の新製品のヒントがあったりする。インプロの良いところは、すごくくだらないアイデアでも一生懸命育てるところにあると思います。

 

絹川:そう言えばヤンさんは、ヨーロッパを中心に、インプロを使ってビジネスのワークショップをしていますね。ヨーロッパではどうですか?

 

ヤン:ヨーロッパではクソ真面目な研修が多くて、しかも高額です。研修は、勉強をするものだと思われています。企業の人たちは、インプロだけをやろうとは思いません。「なんでやんなくちゃならないの?」と思っています。

 

清水:なるほど、うまいことやってるな〜。

 

絹川:ビジネスの分野では、ただ楽しいだけのインプロはなかなか受け入れてもらえませんね。日本でも似たような状況だと思います。

 

清水:インプロは、日本の企業にとって、必要になってきてるんですかね。重要なことだから、ちょっとお金を出しても行った方がいいかな、みたいな。企業に、インプロは必要となってきている感じなんですかね〜?

 

小山:まだまだこれからという感じですね。インプロは、ゲームや遊びと思われているところがあります。でもゲームや遊びの部分がなくなったらインプロじゃなくなっちゃう。だから、そこをうまく理由をつけてやっていく必要があります。

 

これはいろんな会社が言ってるんですけど、「アウトオブボックス」、つまり思考のボックスから外れることが必要なんです。しかし、どうやったらできるかということについては、まだセオリーがありません。そこにインプロをパチっとはまるんです。

 

「これをやるならインプロですよ」って、何回も何回も言い続けて、ようやく「じゃあやってみますかっ」ていう感じになりますね。説得力があるかどうかと言えば、まだこれからというところ。まだまだ、声を大にして言わないといけないと思います。

 

清水: それを言っているのが小山さん! バンバンお願いします(笑)

 

一同:笑

 

もう一つの可能性として、、。

小山:製品開発もそうなんですけれど、あとひとつインプロが活用できうる場面は、メンタルな問題に対してです。うつ病を患う人が増えています。これを解決するのは、日常の「イエス・アンド」なんです。

 

日本の会社では「あれができない」「これができない」と、人格が否定されることが多い。日本の会社は特に減点主義なのです。これやったらマイナス。出世競争の途中で「こいつは、この失敗をしたからだめ」だと烙印を押されてしまう。

 

昔は……これもソニーの話になっちゃうんですけど、役員会議で「あいつはこの事業を任せよう」という話が出たときに、「だめだ。あいつは失敗経験が足りない」という話になった。「じゃこいつは?」というと「こいつは失敗しているのか」と言われ、「してます」というと「じゃ、合格」となる。

 

つまり、失敗した経験のある人間は上に行けるんです。昔は、そんな会議が普通にあったんです。

 

絹川::なぜ、日本はこんなに変わっちゃったんでしょうか。

 

小山:なぜ変わったんでしょうね。やっぱりそのマーケティングのような「確実性」が求められるようになったことに原因にあるのではないでしょうか。

 

「確実に成果がでますよ。確実にできますよ」っていう考え方です。

 

インプロには確実性がありません。「やってみなきゃ分からない」というところがあります。そこが一番ネックでもあり、魅力ですね。

 

企業の担当の人と「インプロ、いいですねー」って話していると、「じゃあ、確実に成果出るんですか?」と聞かれる。

 

清水:そうとは限らない

 

一同:笑

 

小山:そうとは限らないところがインプロのよいところなんですよ。でも企業側は、そうなると「うーん」と腰が引けてしまう。

 

インプロは常識では説明できないところがあります。説明できないっていうことで、企業は表向きに利用しようということに、なかなかならないです。

 

だから僕はあえて言うんですよ。「効果は確実に出ます!」って。

 

一同:おおー

 

小山:橋渡しみたいな人が必要なんです。「過去こういうケースでこう結果が出ました。だから確実に出ます」と。自信を持って言う。過去に実績があるかないかで、判断されることですので。しかも今まで、実際に結果が出なかったことはないんです。

 

清水:素晴らしい。面白いなぁ。今はもう一押しの段階なのかなぁ。これからなのかな。

 

 

今日のように、演劇を見に来た人の中でも、普段の仕事や生活の場面でいきなりインプロやり始めるといい。

小山:そうです。今日のように、演劇を見に来た人の中でも、普段の仕事や生活の場面でいきなりインプロやり始めるといい。

 

「こいつおかしくなった」って思われるかもしれませんが、コミュニケーションの中で「イエス・アンド」をしてみる。つまり相手のことを受け入れてアンドで返してみる。そういうことができるようになると、ずいぶん職場の雰囲気も変わってきます。

 

究極にいうと、文化が変わらないと、受け入れる企業の態勢もできません。ですから、草の根活動ですが、インプロ的に「人を許容する」ような雰囲気をいろんな場面で作っていけたらいいなあと思います。たとえば、家庭とか職場とかでね。

 

清水:まず「ノー」って言わない。

 

小山:そう「ノー」って言わない

 

清水:かなり「え?!」って思うことがあってもね。たとえば、「どこ行こうか?」って方向性の話しをするときに、「いや、そこは〜ダメ〜かな〜」っていうネガティブな考えに陥ったとき、「まずは考えてみよっか」って提案するだけでも違いますよね。

 

小山:違いますね…。あ、それでいま思い出したんですけど、 2歳半のぼくの娘が、「ティミーちゃん」ていう羊のキャラクターのバックを持っていて、今朝それを保育園に持ってきたいって言ったんです。

 

そしたらうちの奥さんが間髪入れずに「だめ!」って(笑)。でもまずは子どもがそう言ってるんだから、イエスで受けるといいんですよね。「持っていきたいよねー」って。「持っていったら、みんなから人気者だよねぇ。みんな遊びたい、遊びたいってなるよね」って言うと、思いっきり「うん!」って元気に頷くわけですよ。こうやってどんどん気持ちを乗せていって、「でもねティミーちゃんは赤ちゃんだよね。赤ちゃんは保育園に行けないんだよ〜」って言ったら、その勢いのまま「うん!」って頷いていました(笑)。

 

一同:笑

 

小山:なので、「ノー」と言わずに「イエス」で受け入れると、子育てもなんかうまくいくような気がします。

 

清水:面白い!

 

小山:そういう風にいろんな場面で使えたらいいなぁって思いますね。

 

絹川:参考になりますねー!いろんな場面で使えますね〜。

 

清水:特に最後のは使えますねー(笑)。「うん!」って言っておいて、こっそり「ノー」みたいな。

 

一同:笑

 

絹川:大事な人のために使っていただければと(笑)

 

清水:小山さんもインプロやってらっしゃるんですよね。

 

小山:(照れながら)あ〜やってます、やってます。あとインプロと違うですけど、能楽をやってまして、始めて1年ほどになります。これも、すごく面白いです。

 

能楽は(インプロと違って)全部、型が決まってるんですよ。「こうやって謡って、こうやって舞う」っていう風にね。しかし能楽は、型が決まっていることで、逆に心が自由になる演劇なんです。一見、インプロと全然違う方向に向かっているんですけど、心が自由になっていく。そこが実は、インプロっぽい。両方やっていくとそう感じます。頭の中が空っぽになります。それがすごくいいです。

 

インスピレーションを引き寄せてくるっていうか、能楽のように型が決まっていると、逆に心が自由になる。それが発見でした。

 

一同:面白いですね〜。

 

絹川:さて、そろそろ終わりが近づいてきました。わたしは、小山さんとのお話や、出演者のみなさんのお話を聞いて、「型と自由、能とインプロ、ビジネスと演劇」といった異種格闘技だからこそ、そこに刺激や発見があって、もしかしたら私たちはそこから「人がホントに必要としていること」を新しく生みだしていけるのではないか。そんな可能性を感じました。

 

小山さん、ご来場のお客さま、出演者のみなさん、今日はどうもありがとうございました!

 

一同:ありがとございました!

 



2013年6月3日収録

テープ起こし:上田知子

写真:山村いずる

監修:インプロワークス(株)&(株)ブルームコンセプト