ひみちゃんに聞く!(2014)


「ひみちゃん」こと廣瀬日美子さんは、、。

 

インプロ・ワークスの「即興を遊ぼう会」制作スタッフ。

10年来の長いお手伝いしてもらっています。

 

それに加えて、ここ数年おこなっている東京都福祉施設いきいきプラザ主催「高齢者対象ワークショップ」がさまざまな区域で大評判。

 

参加者(平均年齢70歳?)のみなさんから「もっとやってほしい!」というリクエストをいただいています。

 

2014年1月からシリーズで行われる「高齢者のためのワークショップ」について、お話を伺いました。

 


絹川(以下ゆり):ひみちゃん、お久しぶりです〜!

 

廣瀬(以下ひみ):お久しぶりです〜!

 

ゆり:今日は、来年おこなう「高齢者対象のワークショップ」の打ち合わせ

でひみちゃんに来ていただいています。

 

ひみちゃんの活動の話しはいつも面白くて、いつも「いろんな人に知ってほしい!」と思っていまました。

 

今日は、わたし達の打ち合わせの一部を録音させていただき、それを文字にして、いろいろな方々にも読んでいただきたいなと思っています。

 

 

ひみ:は〜い、よろしくお願いしま〜す!


 「高齢者」と表現ワークショップすること。

ゆり:まずは、来年から月1回で始まる

「高齢者のワークショップ」について。

 

すでにこのワークは、港区など東京都内で何度かおこなっていて、高齢者のみなさんから「他の人に教えたくない!人気になったら、わたしが参加できなくなってしまうかもしれないから(抽選のため)」という、まるで「誰にも教えたくないお気に入りレストラン」みたいな人気になっているんですよね。

 

ひみ:そうなんです。みなさん、本当に楽しんでくださって。

 

はじまる前は「誰とも話さない」みたいな方が、最後には、笑顔でワイワイ表現している姿をみると、こちらが嬉しく元気になります。

 

ゆり:なるほど〜。

 

街中や電車内でみかける高齢者の方々って、地味でおとなしくて堅苦しそうなイメージが強いように感じます。そういう「楽しんでいる姿」を見ることはめったにありませんので、そういう姿はこちらが嬉しくなりますよね〜。

 

ひみ:もう子どもみたいな姿がステキです!

 

ゆり:ただ、だからといって、こちらが「こども扱い」してはいけないと思います。

今日、ひみちゃんに聞きたかったのは、その辺りです。

 

高齢者へのワークショップ、つまり自分よりずっと年長のみなさんとのワークショップは、いつものやっている、ひみちゃんの子どもへのワークショップとは注意点が違うと思うんです。高齢者という方々に表現をうながすために大事なことって、どういうことでしょう?

 

ひみ:まずは参加者のみなさん全員を「リスペクト」すること。

この気持ちを持つのが大事。それが大事ですね〜。気をつけることはいろいろあります。大きく分けると2つ。ひとつは「身体的」なこと、もうひとつは「精神的」なこと。

 

ゆり:なるほど〜。では「身体的」なことってどういうことでしょう?

 

ひみ:高齢者だけではありませんが、

人間はそれぞれ「身体的なコンディション」が違います。

 

ゆり:それは個性だとも言えますね。

 

ひみ:そう個性です。ただ、それだけではすまされない部分があります。

 

表現のワークショップをやることが前提なので、そこに対応して、気をつけなくてはならないことがあります。たとえば、耳が聞こえないだとか、目が見えづらいとか。どの程度、身体的な障害があるのかはなかなか分かりません。どのくらい歩けるのか、どのくらいの体力なのか。みなさんの状態をぜんぶ教えてもらうわけにはいきません。

 

たとえば、話しをするエクササイズをした後に、「わたしは耳が・・(遠くて)」とおっしゃる方がおられました。そうなると、その方がどこまで分かってどこまで楽しめたんだろう、、と。あまり動けない方々もおられます。その方々に対して「どこまで動けないのですか/どこまで動けますか」とは聞きづらいです。

 

ゆり:それってさりげなく聞く方法があるといいけれど。

少なくとも、人前では言いづらいので、プライベートに聞くことになりますね。でもワークショップは1回こっきりということもあるし、人数が多い場合もあるしで、なかなか一人ひとりに対応するわけにもいかないものね〜。

 

ひみ:そうなんです。


「精神的」な部分で気をつけなくてはいけないことは?

ゆり:では「精神的」な部分とはどういう点でしょう?

たとえば、参加者のみなさんへ、どういうテーマを提示するんですか?

 

ひみ:身体的に激しいことはできない方々でも「おしゃべり」は好きな方が多いです。

 

座ってでもできますので、「おしゃべりする」エクササイズはたくさんやります。そのときのテーマなどは、できるだけ、楽しかった思い出とか自慢できる事とか、ポジティブな話しが出るようなテーマにします。それでも最初は、「楽しいことなんかないわよ〜」っていう人がけっこういらっしゃいます。でも「ないですか〜?」って促したり、「じゃあ得意なことでもいいですから〜」みたいにします。あと「子供のころの楽しかった思い出」、子どものころの行事「ひな祭り」とかね。誰かが「うちはこうだったわ」とか話が出てくると、それがきっかけとなって、「うちはこうだった/うちはこうやってた」などと話しやすくなるようで、だんだん楽しくなっていくようです。

 

インプロのワークショップのいいところは、社会的な格差なしに、みんながイーブンに関われることです。

 

ゆり:たとえはみなさんに平等に楽しんでいただくために、

そんなことは無理な話しかもしれませんが、出来る限りという意味で、「どのようなお題を出すか」について繊細に意識する必要があるんじゃないかしら。お題は、普遍的なものがいいのでは。格差を超えて、普遍的なもの。子供のときの思い出とか?

 

ひみ:みなさんやはり大人ですので、どんなお題でも

「自分でこれぐらいは言っていいかな/言えるかな〜」っていうことを調整してしゃべるので、割とどんな題名が出ても大丈夫だとは思います。

 

ゆり:なるほど〜。

逆にこちらは、あまりナーバスになる必要もないっていうことでしょうか。

 

ひみ:すごく前向きな人たちが多いので、2,3人集まると

「私たちの共通点は旦那が死んでることで〜す」みたいなことを言えちゃう

 

ゆり:へぇ〜、言えちゃうんだ〜!

 

ひみ:そこがふっきれてる

 

ゆり:そういう意味では、高齢者っていうと

「過去に縛られている人たちか?」と思う部分があるけれど、決してそうではないんですね。

 

「元気な高齢者」に出会うことは、いつかは高齢者になるわたし達には、楽しいことですよね。吹っ切れてる人と関わることで、吹っ切れるんじゃないかなぁ〜。つらいことがあっても客観的に見る目。ユーモアの視点を持つことが必要なんだけれども、それはひとりではなかなか持てなくて、他者と会うと、その視点に移行ができるのかも。旦那が亡くなったことを悲しいネガティブなことととらえるか、共通点と捉えるか。

 

ひみ:そういう所、大事ですね〜。

 

ゆり:ユーモアに持っていくのが大事ですよね。

もちろん馬鹿にしたりしないで、リスペクトを持って。そして客観的にいることは私たちに大切なことですね〜。

 

ひみ:人と出会うことによって起こる「健康的な刺激」の大事さを感じます。

 

こちらが「いま何かやってるんですか。」って聞くと、「私はこういうの好きなのよぉ〜」と、80歳代の方が話し始めてくれます。自慢話をしてくれます。すると、他の人が、「この人の話しは面白いから、みんなにしてあげて〜」と言い出し、話していたみんなの前に出てきて、お話することになりました。

 

その方はこう言いました。「私はいま写真に凝ってて、知ってます?あそこいいショットが撮れるんです〜。」っていってね。全員が、「すごーい!」みたいな感じの雰囲気になる。自分よりも年上の人がこんな前向きに、自分の楽しみを見つけてやっているんだみたいなそういう人がいると、周りに人もみんな励まされてるみたいです。

 

ゆり:いまわたしは東大で「創造的触発」について研究しているのですが、

やはり人と人が出会うことで、得る「刺激」が脳を活性化させるようです。ただし脳が活性化するためには、物事の捉え方が「ポジティブ」であることが大事なので、そういう意味で「イエスアンド」というポジティブなキーワードがあるインプロは、とても相応しいと思います。

 

ひみ:なるほど〜。人がポジティブになれる場が必要なんですね。

 

どうしたら高齢者がポジティブになれる「場づくり」ができるかを考えると、本当にもっとわたしたちが想像力を発揮して、相手の立場になる必要があると思います。

 

たとえば、その写真をやっている方は、あまりワークショップのような場にはこなかったそうです。「私は婆さんじゃないから、そんな手遊びみたいなことを嫌よっ」て感じなの(笑)そうだったんだけど、わたしのワークショップは、けっこう来てくれました。「おばあちゃん、おばあちゃん」って、おばあちゃん扱いをするんじゃない状況で楽しみたいようです。「私たちこういうことをやっているのよ」って周りに言えるような、そういう場じゃないと、馬鹿にされている気持ちにもなるみたいですね。

 

ゆり:そういう意味では、日常では、年寄りを年寄り扱いしちゃう傾向が

あるように感じます。特に日本は。

 

ひみ:とりあえず、「おばあちゃ〜ん、お遊びしましょう〜」みたいのね。

 

ゆり:なんか馬鹿にされているような気にもなりますよね〜。

そうじゃない老後が欲しいです。

 

ひみ:そうそう、そうなの。

 

ゆり:自分が年を取ってもそう扱われるの嫌だもんね。

「おばあちゃーん」みたいに扱われたくないな。

 

ひみ:だから声掛けにも実は気を使っています。

「どういう声のかけ方かいいんだろうか」ってけっこう考えます。本当に心から相手がしてくれたことを「すごい!」って思って発言していないと、上から目線で見下したように「すごいね~」って、子どもに向かって言っているようなニュアンスになっちゃったら、本当に失礼だと思います。

 

ゆり:年配の人ってそういう相手の態度に、実はすごい敏感なんじゃないかしら。

 気をつけないと、失礼になるよね

 

ひみ:その通り!

男の人の場合にはもっと敏感で、「何をやらせるんだい?」と警戒心がある。そういう姿勢からはじまる。だから、参加者に会うときは尊敬や尊重の気持ちを持っていることが大前提です。

 

ゆり:そこ大事ですよね〜。誰だってリスペクトされたい。

誰だってみじめな思いはしたくない。誰だって恥じをかかされたくない。そいうものです。

 

「人間はみなそういう気持ちがある」ということを大前提にして表現ワークショップをしなくてはならないと思います。そういう気持ちに対して「そうじゃなくて、恥をかきましょう!」みたいなアプローチも違うような気がします。それだと、相手の気持ちを無視していることになるじゃないですか。

 

いま、先日、ある学会に行って怖いなって思ったのは、研究者や学生など、発表者の中には、「ワークショップやエクササイズを“やらせる”」っていうの。「被験者にこれをやらせてみたんだけど」っていう言い方をいうの。それってすごく見下している感じがして、嫌な気持ちになりました。そういう気持ちは無いのかもしれないけれど、客観的な一般人のわたしはそう感じました。「やらせる」じゃなくて、「やってもらう。」が正当ではないかと思うんです。

 


ここにも「偏見」がある→引きこもりの青年たち×大学生

ひみ:ちょっと話題がそれてしまうんですが、、。

 

ゆり:なになに〜?

 

ひみ:私は普段、若者の自立支援の仕事をしています。

(注:ひみちゃんが活動しているのはNPO法人「文化学習協同ネットワーク」

そこに、普通に大学に通っている学生たちが「卒論のための取材をしたい」ってやってきます。話しを聞いてみると、彼らは「働けない人たちが、どうやったら働けるようになるのかを卒論にしたい」って言うんです。私はそういう言葉を聞くとカチーンってくるんですよ、その感じ方にね。

 

ゆり:そこには、自分(学生)よりも、ずっと年上の

引きこもりの方々もおられるんですよね?

 

ひみ:そうです。

 

あなたたち(学生)よりも、もっともっとずっと大変な想いをしている人たち、年も上だったりする人たちに対して、「自分の論文のため」に観察者としてだけ、一緒に働いて、まずは仲間として、一緒にやってみることを、まずしてください。それができないんだったら受け入れられないって伝えています。「私たちのところいる人たちを、被験者として見て、分析の対象にするなんて、そんなことはできない。そういう理由で来てもらっても困る」って彼らに話します。


 


 現場の問題→「共感」がない。

ひみ:共感がない状況ってすごく多いんです。

うちにいる人たちは、大学を出てからやってくる人たちもいっぱいいるし、そこにある課題っていうのは、ひとりひとりの問題だけではないということ。それを分かろうとすることが、大事なんですよね。

 

ゆり:わたしが知っている東大の研究室では、教授がまず被験者の人に対して、ものすごく丁寧です。ですので、そこにいる学生や研究者の人たちもインタビューがすごく丁寧です。もう細心の気持ちを払っている。

そうそう、いま話題に上がっている「偏見」に関して、人間がもつ「偏見そのもの」についての研究ができるんじゃないかなと思います。

そして、お互いがお互いを理解していかないとね。

 

ひみ:そうなんです。

たとえば一般の人たちにとってみれば、「自分たちは必死になって働いて、いつも馬車馬のように働いて、それで収めた税金で、なんにもしないようなニートの人たちに使われるって、どういうことだよ?」って本当に思っちゃってね。

でも、実際に会って、それは怠けているわけではなくて、「働きたくても働けない」ということが分かってきます。そこがわかると、「この問題は、個人の問題だけではなくて社会の問題でもある」ということがわかるんじゃないでしょうか。

自分たちと同じ時代に社会に出ている人たちがそうやって悩んでいるんです。彼らが生きにくい社会というのは、自分も生きにくい社会だってことにつながっていかないと、その部分が出合って行かないと、変わっていかないんじゃないかな。

 

ゆり:だから、知らないといけない、知らないと知り合えない。

 

ひみ:ここに難しさがあります。この前、求職者支援をしたんです。

 

それは、60代まで可能だったんですがこのプロジェクトはとても面白いことが起こりました。それはいろいろな年齢の人たちが集まることによって、「育ち合い」が起こったということ。

 

ゆり:「育ち合い」ってどういうことですか?

 

ひみ:年長者のおじさんが、青年にアドバイスしたり、その逆が起こったり。

普段会わないような層の人間に会うことで、お互いに無い所や出来る所を補いあっていくことが自然に起こりました。もちろんインプロのワークショップも入れていきましたし。

 

ゆり:へぇ〜、そういう人たちはインプロのワークショップってどうだったんですか?

 

ひみ:大人気でした!

 

全体の体験でなにが一番印象にありますか?とアンケートをとったら、たくさんの人が「インプロが面白かった!イエスアンドという考え方に救われた!」とおっしゃっていました。

 

ゆり:うれしいねえ〜。

 

ひみ:そう!

 

そして、イエスアンドが人間関係のベースにあると、いろんな人がいても、というか、いろんな人がいるほど、幅広いほど、「育ち合い」が起こります。

 

 

ゆり:「育ち合い」っていい言葉ね(しみじみ)。


「共感」から始める→スタンフォード大のデザイン方法〜。

ゆり:ワークショップをデザインする場合、

「どんなエクササイズをやるか」という「内容」から考えるんじゃなくて、まずは参加者に共感することが大事だと思います。

 

これについては、去年サンフランシスコで行われた「応用インプロのコンフェランス」で、スタンフォード大学のデザイン・スクールに見学に行ったときに学んだことなのですが、、。

 

ひみちゃん:ひやぁ〜アカデミック〜!

 

ゆり:いやはや。

デザインが生み出されるプロセスなんだけど、こんな順番なの。

 

 

1.       Empathize :共感する

2.       Define:定義づけをする

3.       Ideate:アイデアを出す

4.       Prototype :見本をつくる

5.       Test:テストする

 

それで、アイデアを出すときって、まずはクライアントさんに「共感する」と言う事が大事で、そこからアイデアを出していくのが大事なんだけど、初心者のデザイナーが陥るケースは、クライアントさんの気持ちを考えないで、「とにかくアイデア、アイデア、アイデアを出す!」というところに夢中になってしまうこと。それだと、どんなにアイデア自体が新しいものでも「欲しい人がいない」ということになってしまう。

 

それって、ワークショップをデザインする時にも忘れてはいけないところだと思うの〜。

 

ひみ:それはどんなワークショップでも必要だよね。

 

ゆり:そうだよね!

 

高齢者のみなさんへの「共感」が大事だよね〜。

ということで、ようやく「高齢者のワーク」の話題に戻ってきたということで。

 

ひみ:じゃあ、ワークショップのタイトルを考えようか?

 

ゆり:そうだね〜、考えよう〜!

 

ということで、ひみちゃんへのインタビューはここまで。

あとは「秘密打ち合わせ」です〜。


みなさん、ご拝読ありがとうございました〜!

 

しゃべり手:ひみちゃん(廣瀬日美子)

ききて:ゆり(絹川友梨)

テープ起こし:ともちゃん(上田ともこ)

 

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