役者(Acteur) それは弱い存在だ。

役者(Acteur) それは弱い存在だ。というのは、それは推論するよりは感ずる者だからである。あるいは、あたとえ推論するとしても、それは識らぬ間に指示を受けてそうするからだ。したがって、役者は男性的であるよりもはるかに女性的だし、完全であればあるほど弱いのである(中略)。
 役者は権威を持っている。クレマンソーもその前では沈黙する。すばらしく自分の身体を使う人たちがみんなそうであるように、役者の身体は重みがある。ワルツのうまい女の身体がそうであるように。両足は床にくっついている(中略)。
 それは息づく存在だ。息づかない役者は、一本足のスプリンターのようなものであり。そして、役者は大きく息づくから、他人の空気を吸い上げられる(中略)。
 役者は身体では動物、感性では女性、信念では子供である。
(ヴィラール「演劇の事典」(渡辺淳役)テアトロ 1976)