コロンビア14日目

 朝クラス:9時ギリギリに行くと、会場の入り口でみんながたむろっている。会場内を見ると、パーティ会場のようにセッティングされているテーブルや椅子をスタッフの人たちが片付けていた。それを待ってからのスタート。朝のクラスはいろいろな国から来ているメンバーが多い。彼らはこのワークショップシリーズを受講するためだけに、数ヶ月もコロンビアに滞在している。そしてワークショップも終盤にさしかかっているためか、体調の悪いメンバーもちらほら。なかなかエンジンがかかりづらい。「紹介だけなんだけど」と波乗りジョニーをやってみたら、みんなが狂乱。衝撃的だったらしく、そのまま全員が体験するところまでやった(時間がかかるので本当は全員はやりたくなかったんだけど)。その後ビビリビビリバ。1人対して2人がストーリーテリングをするエクササイズから、キャラクターモノローグのエクササイズを経て、、というところで「ドミノ」と考えていたのだけれど、どうも想定している時間より30分ぐらい早い。「何か忘れていたっけ?」と思い返して、気が付いた、ジャスチャーからダンスをつくるエクササイズをまるごとごっそり忘れていた。このエクササイズは、次回行うロングフォーム「トレイントレイン」の理解につながるので、今やっておくべき。ということで、多少流れとしては途切れるのだけれど、休憩をはさんでやってみた。昨晩のクラスと同様に衝撃的に盛り上がった。その後「ドミノ」のデモンストレーションで時間切れ。

 その後、超ひさびさに友人のBetoと会ってランチ。彼とは2004年のドイツでのシアタースポーツ世界大会で出会った。彼はコロンビアチーム、わたしは日本チーム。その時のコロンビアチームはめちゃくちゃ素晴らしくて、コロンビアという国を色付きで知ったのはこの時が初めて。今では彼も家庭をもち7歳になる息子をもつ父親。インプロとの関係も変化している。それまではいろいろな国のインプロフェスに招待されて、いろいろな国でパフォーマンスしてきたけれど、今はできるだけ家族とともにいるように、2週間以上は家をあけないようにしているという。この辺りは別のインプロバイザーからも似たような話を聞いたことがある。長年インプロをやってくると、その良いところや弊害が見えてくる。いろいろな話をぶっちゃけて。それができる相手がいることが嬉しい。その後アパートに帰って、1時間昼寝。ここで寝ておかないと、次のワークショップがきつくなる。

 夜ワーク:今日は「トレイントレイン」がメイン。朝もりあがったので同じように波乗りをやったら、もう朝以上に盛り上がって、みなが原始人のようにウッホウッホいうので、こちらも開放的な気持ちになる。いくつか「トレイントレイン」の要素になることを練習。その後コンセプトを説明して、「トレイントレイン」を。2チームで40分づつ。全員初めてやったが、それぞれがHonestなパフォーマンスをしていた。日本のトレイントレインとの違いは、パーソナルモノローグの質。こっちのプレーヤーのほうが自己開示ができていて、自分の心を素直にトロしている印象があった。この開いてお客さんとつながる感じ。とても大事。忘れたくないと感じた。あとムーブメントも結構面白い。また夜チームは「ポジティブなコメントをする/学び合う」ということが、徐々に文化として形成されてきつつあり、終わったあとのフィードバックが大変に実りあるものとなった。もう私がいなくても、お互いに高め合うことのできる関係性が築けているのを感じた。ワークショップが終わってから、参加者の一人が「このフォーマットを、次のインプロフェスティバルで使っていいだろうか」と許可を求めにきてくれた。もちろん上演権利があるわけではないし著作権フリーなので、習うと習った相手に何も言わずに、勝手に使う人たちも少なくない。ひどいと、まるで自分が考えたかのように宣伝する人さえいる。そんな中、ちゃんとこちらにパーミッションを求めてきてくれることが嬉しかった。

インプロが一番ポピュラーなのは、確実にアメリカやカナダ。テレビ番組あるし、インプロから有名人がたくさん出ているから。だからそれ以外の国でインプロをやっている人たちは、どうしてもアメリカカナダを追うことになる。しかしアメリカやカナダのインプロは、言葉だけで進めるものが多く、身体性にかけているものが多いように感じる。またコロンビアの人たちのような自己開示はできていない(しない)ように思う。自分の本当の部分は人に見せないというか。そういう意味でこれは中南米の人たちの強みになるのではと思った。そこでコメントとして「みなさんアメリカやカナダより自分たちのインプロが遅れていると引け目を感じているかもしれませんが、わたしの個人的な意見としては、みなさんの暖かい自己開示は、お客さんの心を揺りうごかすものであり、アメリカやカナダのインプロバイザーにはなかなかできないこと/やっていないことであります。だからみなさんアメリカやカナダを真似するのではなく、自信をもって、自分たちの良さを追求していてください」と言った。言いながら「これは日本でも同じことだな」と感じていた。

 さて朝と夜と2つのクラスを担当していると、それぞれの違いが、またわたしの学びになる。1つ学んだこととしては「いいワークショップになるか/ならないかは、講師の技量ではなく、参加者の態度(態度?うまい言葉が見つからないけれど)」ということだ。参加者が「この人は、すばらしい講師だ。学べることがたくさんある。教えてくれてありがとう!』という態度をしてくれると、こちら(講師側)も遠慮なく心を開いて本質を語ることができる。普段は言わない信念とか、スキルとか、そういうことも伝えたくなる。反面「そんなこと、もう知ってるよ。やったことがあるよ」という態度をされると、講師としては「じゃあ、これは言わなくてもいいかもな〜」という気持ちになってくる。説明も三分の一ほど簡略化される。わたしも自分がワークショップの参加者になるときは、前記の方の態度を心がけようと思った。そのほうが、講師からたくさんのことを学ぶことができるからだ。そういえば内田樹さんがお書きになった「先生はえらい」という名著があったっけ。今、朝と夜という2つのクラスを担当している。1つのクラスは講師としてのわたしを解放させてくれる。もう1つのクラスは、講師としてのわたしを縮小させてくれる。もちろんできるだけ両方のクラスメンバーと同じように関わろうと思ってはいるのだけれど、どうしても異なってしまう。そういう自分に直面することも、興味深い経験である。明日も2クラス。夜クラスは明日が最後。
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